二章 炭と鍛錬、世界に類のないKATANAを生む

 

なぜ日本刀が他の伝統工芸品と別に、日本人の原点、神聖さの象徴だろうか。それを解いていくために製造方法(作刀)を大まかにでも説明しておかねばなるまい。

 

日本刀の特徴をひとことで云えば「鋼(はがね)を素材とした折り返し鍛錬法」だ。鋼は砂鉄から製鉄する。砂鉄からというのは珍しいし、その製鉄法も世界の製鉄法から見て珍しい。そう、聞いたことがあるだろう。たたら(踏鞴製鉄である。

粘土で作った角形の低い炉の中へ砂鉄と木炭(スミ)を敷き詰め火をつける。三昼夜連続でふいごを使って送風しながら燃やす。ここが肝心である。

超高温ではいけない。比較的低温の1200~1400度ぐらいだ。他国では鉄鉱石を用いるから1500度以上の高熱が必要だ。木炭ではなくコークスで溶かすため鉄の結晶は劣化する。

三昼夜連続で炉のまわりの土が浸食される。 ゆえに土と木炭の要素が加わり、炉の底に鋼の塊(ケラ)ができる。これが日本刀の命である原材料である。

おわかりだろうか。肝心なこととは比較的低温と長時間である。これを可能にさせたのが木炭(スミ)であつた。世界で一番早く木炭を作り、豊富な木材から世界で類のない良質な木炭が作られた。木炭は日本の恵まれた自然と日本人の智恵の結晶だ。この間の一節削除 木炭があったからできた鋼=和鋼。和鋼からつくられた刀、ゆえに日本刀なのだ。

 

鋼にも出来不出来によって松竹梅のランクがある。最高の鋼が「玉鋼」(たまはがね)とも呼ばれる。日本刀に使う最高級の鋼との意味合いがあるのだろう。←削除 たんなる鋼ではない、タマ(命)の鋼だという刀工の誇りから生まれたのだろうか。その他の鋼は卸し鉄(おろしてつ)とも呼ばれ、炭素量によって用途を使い分けされる。

 

さて、ここから刀工の仕事となる。では、折り返し鍛錬法とは何か。

燃え盛る火炉(ホド)の前で、刀匠が赤く焼けた鋼を持ち、弟子が一人、二人(先手)、大きな槌(大槌)でそれを打っている写真を見たことがあるだろう。折り返し鍛錬をしているのだ。作刀の一番ポピュラーなシーンだ。

鍛錬とは叩くこという。近頃の若者は叩かれないから素材の良い人間が生まれない。この師弟が小槌と大槌を打ち合う呼吸から「相槌を打つ」という言葉ができた。

 

玉鋼を板状にし(水減し)、鍛冶屋が材料を打ち切る刃物、鏨(たがね)を入れて2cmほどに小さく割る(小割)。ホドの中で鋼を沸かすためのテコ棒と鋼の塊を置くテコ台をつくる。沸かすとは熱することだ。テコ台に小割りした鋼を乗せ崩さないよう和紙を被せ、上から藁の灰をまぶし、泥汁を塗る。鋼と空気を遮断し、鋼の酸化を防ぐのだ。そして、ホドに入れる(積み沸かし)。

鋼を取り出し大槌で十分に鍛錬し、中央に切り込みを入れ折り返す。刀匠によって回数は違うが10~15回程度繰り返す。横(一文字)だけでなく縦(十文字)にも折り返し、また沸かし、鍛錬する。これを折り返し鍛錬法という。このため刀の断面は、15回で自乗計算すると約3万3千の層状となり強靭な鋼となる。鍛錬を重ねることで不純物も取り除かれて清浄される。これは現代科学で証明されている。また、この鍛錬で鋼の重量も数分の一にも減量するのだ。改めて祖先の智恵に感服する。

 

玉鋼を鍛錬してできたのが皮鉄(かわがね)。次に炭素量が少なく軟らかい心鉄(しんがね)も同じ折り返し鍛錬でつくる。これは7回~10回。この心鉄を、先の皮鉄をU字型にしたものの中に包み込み、また沸かし鍛錬し接着させる。これが「造り込み」。この甲伏せのほか、心鉄の下に刃鉄を置く三枚鍛えもある。柔らい鋼を強い鋼で包むことで、細身でも折れにくく、曲がりにくい日本刀ができる。

 

余談。手にしたときの日本刀の平均的重さを知っているか。刀身が750から1100グラムだから拵えを入れると1キロ前後だ。ゆえに木刀は1キロ以上のものがよい。いざというとき真剣を振ろうと思えば、日頃の練習では軽い木刀は使わぬことだ。

 

以後の作業は「素延べ」「火造り」「土置き「「焼き入れ」。仕上げの過程の「鍛冶押し」「茎仕立て」「銘切り」と続く。簡単に1回で済まそうと思ったが長くなった。煙管で一服したい。作刀の続きは次回で。

 

 

 

予告 3章 火と水をくぐり禊(みそぎ)する

長船伝などの有名な刀匠のものでも国宝もあれば、一つランク下の重要文化財もある。また、それらにも引っかからない刀もある。同じ名工にこんな差があるのかなと不思議だ。

なぜか。日本刀は火と水の中をくぐるからだ。人工物でありながら自然現象で決定的完成度が決まる。自然現象を通ったものでないと神々しさが生まれないと、我々祖先は考えていた。