第三十四話
平成二十九年 八月五日
拙者の武士語辞典
高度成長期と称せられる時代、「会社は城で、社員は家臣」。忠誠心が高度成長期を支えたといわれた。
城を支える、その恩恵を受けるのは家中の者だけでない。城下の者もみな同じ。城を中心に広がり発展する城下町。「日本人が帰りたいと願う風景」がある。
企業戦士は、股肘之臣{ここうのしん}(君主の手足となって働く)として
膠漆恪勤{せいれいかっきん}(せっせと仕事に精を出す)した。
いまで云うパワハラは「勘気をこうむる」「忌諱{きい}にふれる」「剣突{けんつく}をくらわす」であったろう。
いつ何時、「日本人が帰りたいと願う風景」にタイムスリップするやもしれぬと武士語を覚えている(呵呵)。
「大儀である」=ご苦労さん / 「物申す」=抗議することがあるぞ!
「ちょこざいなり」=なまいきな! / 「やくたいもない」=役にも立たない
「ぜひもない」=やむをえない /「慮外な」=そんなこと思いもよらなかった
「恐縮至極」=とてもうれしく思います / 「それは重畳(ちょうじょう)」=大変けっこうなことだ / 「上々吉」=このうえない藝の見事さ
「卒爾ながら」=突然なことで失礼ですが /「罷り越す」=突然失礼いたします / 「おさおさ」=めったにない / 「ひらに」=なにとぞお願いします
「一つまいろう」=まずは一杯 / 「過ごされよ」=パーッといきましょう 「手もと不如意」=ちょっと当座の持ち合わせが…… / 「片腹痛い」=はたで見ていても苦々しい / 「異なこと」=また妙なことを / 「これはしたり」=これは驚いた / 「面妖な」=まったく不思議だ / 「いかさま」 =なるほど / 「念には及ばない」=確認するまでもない / 「業物(わざもの)」=名人が鍛えた刀 / 「人を逸らさぬ」=相手の機嫌を損ねない
「気振りにも見せない」=毛ほどの気配も見せない / 「括(てん)として恥じない」=恥じるそぶりこそ見せない / 「連袂(れんべい)」=行動をともにする / 「出来物」=立派な人物 / 「圭角が多い」=云うことなすことカドが立つ / 「利者(きけもの)」=幅を利かせている者
いま「忖度{そんたく}」が流行り言葉だ。武士語で云えば
「斟酌(しんしゃく)で応じる」=その時の事情や相手の心情などを十分に考慮して、程よくとりはからうこと。手加減すること。
武士語は武士と武士の間でしか交わさない。これは身分制度が頭の中でしかわからぬいまの世ではわからぬ。
身分制度がない、いまの世にうんざりしてタイムスリップしたいのだ(呵呵)。
そう、拙者、某{それがし}、身共{みども}などの一人称は、文面ならともかく、面と向っては口にしない。
御手前{おてまえ}、其処許{そこもと}などの二人称も面と向っては口にしない。これも城下町にタイムスリップしてみないとわからない