第二十二話

平成二十八年　七月○日

　日本刀の研ぎ音｛ね｝を聴きたくなった

　自家の包丁を、その昔、ご近所の金物屋で求めていた砥石で研いでいたら、

　日本刀を研ぎ音｛ね｝を聴きたくなった。

　研ぐ光景は何度もみたが、音に耳を傾けたことはなかった。

　研師を訪ねた。

　

　耳を澄ますと「シャリ、シャリ」という音｛ね｝がした。

　次の砥石は「ジィシー、ジィシー」という音｛ね｝がした。

　次の砥石は「シャキ、シャキ」という音｛ね｝がした。

　次の砥石は「シュッ、シュッ」という音｛ね｝がした。

　次の砥石は「ザシィー、ザシィー」という音｛ね｝がした。

　次の砥石は「シュルー、シュルー」という音｛ね｝がした。

　次の砥石は「コットン、コットン」という音｛ね｝がした。

　粗い砥石から研ぎ目の細かい順に七つ砥石で研いでいただいた。

　他人｛ひと｝様が聴いたら、どう聴こえるかは知らぬ。

　拙者にはそう聴こえた。

　耳はいいほうではない（笑）。

　砥石の詳しい話は省く。研ぎ方も省く。

　身体で会得した技を無縁な者が言葉で説明しても上っ面をなでるだけだ。

　日本列島縄文時代の磨石の剣、鏃｛ヤジリ｝の鋭さは他文明に類の無いもの

　だったと近年の考古学で判明した。

「研磨」という世界に類の無い研ぎの技があって日本刀は完成する。