第二十四話
平成二十八年 九月七日
貴殿にとっての[腰のもの]
[腰のもの]という懐かしい日本語がある、あった。
拙者が日常、野袴の装いであるのは「腰のもの」が差せるからだ。
「腰のもの」がないと、武士の記憶の遺伝が「物足りない」「落ち着かない」とシグナルを送ってくるからだ。
大小を束ねると御回りさんに捕まるから鉄扇子である。
目の前に刃物を持ったキチガイが現れたら、一撃をさばいて鉄扇子で目を突く。そんなことを夢想していると、武士の記憶の遺伝がフツフツを沸きあがってくる。
武士が差していた鉄扇子は、扇子部分のない鉄だけ。
明治の佩刀令で扇子部分がついた鉄扇子が普及した。これは武器ではない、扇子だとの言い訳だ。
特権階級のシンボル、二刀が差せなくなり、武士の記憶の遺伝が「物足りない」「落ち着かない」とシグナルを送ってきたのだろう。
武士の世、ボロは着てても[腰のもの]さえあれば特権階級の尊厳と責務を持てた。
いまの世で、ボロは着てても特権階級の尊厳と責務を持せてくれるのは何であろう。
そうだ、この鉄扇子、その昔、日本武道具さんで求めてものだっだ。