第二十六話
平成二十八年 十一月十一日
野袴と藍染め
まだ御家の禄をいただく身分であったころ、高橋華王さんの自宅におじゃました。出版の目論見があったのか、武術談義を拝聴したかったか定かでないが、高橋華王さんが履いていた袴だけは鮮明だ。野袴をはじめて、じかに目にした。
それ以来、三、四着の野袴を着崩してきた。膝に何度も当て切れした。
最近、一着新調した。当然、「完全湯通し加工」とあるが、そのまま着たら江戸刺し剣衣も、手足も藍に染まる。で、一昼夜、湯船につけて更なる湯通し。それでも二、三箇月は着替えるとき手に藍が多少残る。
野袴姿をよく僧の作務衣と間違えられた。いまもそう。野袴は見慣れていないのだ。「作務衣に腰板がついたら坊主は打ち首ですと」と笑って返す。が、その意味はわかるまい。
新調したものと着古したものの色合いと比べると藍100%と藍40%といったとこころか。二十年ほど着込んだ剣道衣の藍の色合いを愛でてくれた御仁がいた。
「日本の男には剣道着が一番よく似合う」その一端は藍染め美しさであろう。