SAMURAIのいろは 其の<お>

――サムライが側室をもったわけ

 

「側室」「側女<そばめ>」「妾」が時代小説や手軽な時代考証本で混同さ

れている。

正妻のほかに世継ぎ(世嗣<せいし>)候補の男子を産むための女性が側

室。側女は側室候補とでも解釈しておけばよい。妾は愛欲の糧。大店の主

はみな妾。側室、側女は、あくまで武家の身分の名称。

 

武門(武家)の主は、いざ戦さとなったら鎧兜を身にまとい、一族郎党を

引き連れ出陣する。そのために録を食<は>んでいる。昔の戦闘スタイル

では女は兵士にはなれなかった。だから武門は男子の跡目がいなければお

家断絶。

当時の乳児、幼児の死亡率は50%だったと説<い>う。正妻の子だけで

は不安だ。お家断絶というご先祖樣に顔向けできない最悪事態を防ぐのが

側室システムである。サムライが、みな好色家というのではない。

 

 時代小説は男女の機微を主体にするため、殿が好みの女性にお手をつけた

とのことを大げさに、ありふれたこととして書く。たしかに人の世、例外と

してありうること。しかし、側室にはルールがあった。これを破ったら上役、

同僚からあいつはサムライではないと哂われた。

 ルール、その一。側室を選ぶのは正妻。夫にその権利はない。

正妻が「家柄、性格、健康」に合格した未婚女性を夫に差し出し、早く男

子を生ませろと迫る。

 ルール、その二。側室はあくまで正妻の家臣。主従の関係は歴然としてい

た。側室に子ができれば戸籍では正妻の子となる。

つまり「借腹」。これを男のための借腹との勘違いがまん延している。

時代考証家の多くが、三民(農工商)の末裔だったのだろうか。

借腹は、あくまで正妻のための借腹。いまで云うなら側室は代理母。要は

人工授精によって家系を継ぐためのようなもの。だからといって側室に自虐

的精神はない。名誉なのだ。ここが金銭による代理母と根本的に人間的であ

った。

 

 サムライの娘たちは、将来の夢は結婚だけではなかった。側室も選択肢に

あった。メスは貧しいオスより豊なオスの二号、三号さんになりたがると、

現代の遺伝子学で証明されている。

格下の家柄の男とか、分家となった次男坊に嫁ぐより、同格の家柄、もし

くは上の家柄の側室になった方がよいと考えていた。

武士的遺伝子としては、自分の実家の血脈を一段高い家柄の世嗣に残すとい

うことになる。それがサムライの女の手柄だ。

 

子供を授かるために帯を解く――これがサムライの女の武芸である。これ

が見えてないから男尊女卑などと勘違いの歴史認識を持つ。戦国の姫たちを

政略結婚の犠牲者扱いする。

もう、いいかげんに三民の時代考証から抜け出さなくてはならない。サム

ライのためのサムライの時代考証を確立しよう。

 

余談。武家の名家では、乳母<めのと>という制度がある。

ファーストレディである奥様は公式行儀が多く、育児にかかりっきりになれ

ないからサポートするのであるが、真の役割は違う。

奥様が授乳をしていては次の子を身ごもらない。異性に興味を示さない。

現代の遺伝子学で証明されている。つまり早く次の子を授かるためである。

庶民のベビーシッターとわけが違う。