――サムライといえばハラキリだ
異国のサムライ好きはサムライといえばハラキリだ。死の恐怖、苦しみに耐
え自分一人で始末する。畏敬の念である。
切腹の歴史は古い。“震源地”は関東から東北。平家は水死、源氏は切腹と
云われていた。鎮西八郎源為朝が保元の乱で生捕りさせるならと切腹。甥の源
義経の家来、東北出身の佐藤忠信。
「つわもの(武士)が腹を切るのをよく見ておけ。東国の武士にも主君に忠誠
心を持ち、敵に首を取られまいとして自害する者がいるであろうが、あとあと
までの手本を示す」と叫んでから、膝をついて中腰になると、左の腹の下に刀
をブスッと突き刺した。それから右の腹へ引き回した。抜くと今度は胸元へ突
き立て、ヘソの下まで斬り下ろす。十文字切りである。
目をカッと見開き、拳を腹の中へ突っ込み腸(はらわた)をつかみ出し、投げ
出す。最後は切先を口にくわえ、うつ伏せにガバと倒れた。刺し貫かれた切先
は耳わきの髪の毛を突き抜けた。「義経記<ぎけいき>」(杉山・訳)
なぜ腹を割いたのか。「つわもの&もののふ」に直接インタビューしたこと
がないからはっきりしない。彼らもこれを明解に文字にしたためてない。
想像するに腹に魂が宿っていると考えていた、信じていた。心の臓は単なる
血液循環系の中枢器官と知っていた。この信仰のはじまり拙著で詳しく述べ
たので省く。(諸氏、皆、読まれていると察する)
そのむかし、世界空手選手権(全空連)でメキシコシティに出向いた。
フランス審判が拙者を日本人とみると、拳を腹につけ左右に。ハラキリのポー
ズをしてみせた。「オレはサムライが好きなんだよ」と、拙者が英語もフラン
ス語もわからないとみてのボディー・ランゲージ。
押忍<オッス>は空手家の世界共通ボディー・ランゲージ。世界のサムライ
好きのボディー・ランゲージこれだ。拙者が子供のころ、オジサンたちはや
っていた。「××したら、コレもんだよな」と。これを“復旧”できないもの
かとメキシコシティで念<おも>った。余談は終わり。
三島由紀夫の切腹は日本にまだサムライはいたのだと、世界に知らし召し、
日本の威風を“復旧”させた。
日本復興が毎日、叫ばれているとき、原発の事故拡大の責任者が切腹したと
の報世界を駆け巡れば日本の威信は一日で蘇る。いや、日本人の背筋がピーン
と張る。復興の礎となるつわものは現われぬか。
余談が過ぎた。次回で「切腹が作法になった」わけを述べる。