SAMURAIのいろは 其の<ろ>
――武士は外泊禁止、外食も嫌った。なぜか?
<前口上> 「SAMURAIのいろは」は武道通信HP「草莽杉山奮戦記」で綴ろうとしたが、ここ武道具店さんの軒下でふかすこととした。其の<い>は奮戦記に綴った。
武士、SAMURAIの使いわけは、おのずとわかっていただけると思う次第。
江戸の武士は公用以外、外泊禁止。常在戦場が武士の心得である。これはおわかりであろうから説明はしない。ただし例外がある。台風などの気象状況で、その日の内に帰れないときである。
庶民からみればおさむらいさんは、なんと窮屈なものであるか。さむらいでなくて良かったと、大方はそう思っていたろう。だから威張れた。
現代のSAMURAIでありたいと願う御仁は、この程度の窮屈さに耐える根性がないとダメである。しかし、時代のインフラは進歩する。せめて居場所だけは常に家人、家来には告げておくことだ。その点、SAMURAIにとって携帯電話の出現は大いに喜ぶべきことだ。携帯電話の第一の義は非常事態に備えるためで、おしゃべりに使うのは町家のむすめ子のすることだ。
子供に携帯電話は是非かの論議があるが、SAMURAIでありたいと願う親の子だけに持たせばよいことだ。
江戸の武士は外食は慎んだ。時代劇で居酒屋で武士が酒を飲んでいるシーンがあるが、あれはウソである。飯屋にも入らない。なぜか。
大小二刀差して、改札口を通り、電車に乗って、駅のトイレに入って、市街の食堂でランチなど食べたてみなされ。
江戸時代の成人男子の平均身長は160センチといわれている。大刀の柄頭から鞘尻まで80センチ。小柄な男性がこの大刀を、そう小刀も腰に差して日中、人通りの多い道を歩いていたのだ。向こうから来る町家の者は刀に触れないよう気をつかった。なにせ刀は武士の魂である。
重さはとにかく狭い居酒屋、飯屋に入ったら武士もジャマでしょうがない。と、いうのでなく、隣客に酒や醤油をかけられるし、汁が柄を汚すことは充分に想定内のことである。
もし武士が居酒屋に入ってきたら町家の者はその側に近寄らない。いま風に云えば、武士一人で四人掛けのテーブルを占領することになる。江戸の立ち食いのファーストフードなど、武士がいたら刀がジャマで奥に進めない。つまり武士が入ると営業妨害になるのだ。
武士はこれがわかっているから外食はしない。外食が好きな武士は、武士の風上におけぬと蔑まれる。
庶民の手本となれ、庶民から後ろ指をさされるな。武士は為政者として子供のころからの躾けされている。
現代のSAMURAIたらんとする御仁に外食するな、居酒屋に行くなというのではない。
食堂へ行ったら一番奥へ座り、できたら壁を背に静かに食せよ。友と居酒屋へ入ったら大声で話すな。静かに酒を酌み交わせ。
客同士の喧嘩に口を出さず、店員の無礼にも大目にみてやる。本来、ここは庶民の場であり、SAMURAIが来るべき処ではないとのプライド(矜持)を持つこと。