SAMURAIのいろは 其の<ぬ>
――武士は、なぜ腹を身体の中心だと考えたか?
胎・肚とも書く、腹に関する慣用句をあげてみよう。
腹が癒いえる/腹が大きい/腹が黒い/腹が据わる/腹が立つ/腹が無い/腹が煮
える/腹が太い/腹構え/腹に一物/腹に落ちる/腹に据えかねる/腹を痛める(自
腹を切る)/腹をえぐる/腹を固める/腹を決める/腹を括くくる/腹を探る/腹を
据える/腹を立てる/腹を見抜く/腹を読む/腹を割る……
腹には本音が詰まっていると云うか、いざと云うときは腹がたよりと
“日本語”は
考えていたのがわかる。原日本人は腹の中に魂が宿っていると考えていたからだ。
ハラキリもここから来ている。
この「腹」の云い様もはじまりは「武士語」だったろう。
武士は戦場で、頭(脳)で考えるより腹で考えた方が勝つ、また生き残る確立が高い
ことをと経験から知っていた。『葉隠』を語った常朝さんは、父から学問なんぞ公家
のやること、武家の者は木剣を振るっていればよいと教わっていた。要は腹に栄養を
与え、腹を鍛えるには学問は役に立たないと教えている。
うつ病の治療薬に脳の活動を高めるセロトニンがある。このセロトニン、脳の中に
はごくわずかしかない。そのほとんどが、どこにあるかといえば腸の中にある。腸の
管の中の細胞はセロトニンを使い、脳と休むことなく交信している。
拙者らは学校で腸は食べたものを消化吸収するのものだと教わったが、現代医学は
単に食べたものを消化吸収するのでなく、腸は身体全体、すなわち体調をコントロール
する重要な役目を持っていることを突きとめた。専門用語でいえば「脳腸相関」である。
命のやり取りの修羅場を生きてきた武士は、むかしから体験的に、この脳腸相関を
突き止めていたのだ。現代の古流武術で腹式呼吸云々を云うのもこの名残である。
頭だけで考えている奴ばかりだと、泉下でサムライは現代の日本人を叱っているこ
とだろう。戦場を知っている日本人が、もうほとんどいないのであるから仕方ないか。
では、現代風に腹を鍛えるにはどうするか。
まず、自分で考えること。それが腹を鍛える準備運動である。ヒント、頭で考えるな。
平成二十二年正月之十九日