2012.03.25

お得意様各位

野川染織工業株式会社

 

 

ジャージ剣道着の考察

 

 

ジャージ剣道着が若年層を中心に普及しています。この不適切な状況を憂慮する人々は たくさんいます。「選択の自由」を放置すれば、やがて自滅的な方向へと向かうことが心配されるのです。

武州一がジャージ剣道着を作らない理由をお伝えしたく、皆様のご参考になれば幸いです。

 

ジャージ剣道着(以下はジャー剣:品のない呼び名に閉口します)は乾き易さ(速乾性)および伸縮性において木綿より優れており、とりわけ洗濯の簡便

性の高さが主婦層の支持をとりつけました。

しかしながら、一時の利便性、見せかけの快適性、目先の売上追求は本質からの逸脱を招いています。

 

剣道と道具の大前提を下記の様に抜粋しました。

・剣道は衣類の上に防具をつけて打突する競技である。

・衣類も防具も打突の衝撃を軽減し、体を保護する役割がある。

・剣道はスポーツではなく武道である。

・剣道は美しくなくてはならない。

 

これらの大前提を踏まえ、ジャー剣の実態を機能の面と理念の面から考察してみたいと思います。

 

 

 

? 機能

1.     ジャージって何?

ジャージはニット、即ち編み物です。靴下や下着、トレーナー等様々な素材に使われ、伸縮性が最大の特徴です。ジャー剣は石油からできたポリエステル素材のニットの剣道着です。

一方タテ糸とヨコ糸が組みあわせて出来る布が織物で、形状安定性に秀れています。コシやハリ、しなやかさは織物にしか表現できません。着物文化は織物です。着物に属する稽古着は織物でなくてはなりません。

 

 

2.     痛くないのかな?

ジャー剣の上から打たれたら痛い。我慢してはいけない痛みだとおもいます。ましては突かれた衝撃に対しては無防備に近く危険です。竹刀の

ささくれもニットでは簡単にすり抜けてしまいます。安全性に大いに疑

問を感じます。稽古着も防具の一部という原則にジャー剣は反します。

 

 

3.    ジャー剣はクサイ?

ジャー剣の素材のポリエステルは石油から合成した繊維です。健康によい作用はしません。アトピー性皮膚炎にはご法度です。化繊に一度中までしみ込

んでしまったニオイは残留し異臭を放ちます。使用して乾かしただけで

はクサくて着られなくなります。その点木綿は洗濯すればニオイはなくなります。

 

 

4.    熱中症の誘因に!

化繊は皮膚呼吸を妨げます。特に夏場はムレることは周知の事実です。剣道の練習は稽古着の上に防具を付けて体をおおい、通風の悪い室内で激しい運動を行い大量の汗をかくわけです。その状況で素肌にジャー剣を着用するということは体にとって想像以上のダメージとなるのです。

 

九州のある中学校の出来事です。2011年も例年におとらず暑い夏でした。午前中の稽古で数人の生徒が熱中症にかかりました。それらの生徒全員

ジャー剣を着ていたことに顧問の先生は注目。ジャー剣が熱中症を誘引したことを確信し、この地区数校の剣道部にすぐさま注意を喚起。

事態を理解した保護者のほとんどがジャー剣から木綿の移行をき

めました。

水分を吸収しないジャー剣は蒸されて温度と湿度を防具の間に貯めこみ体を魔法瓶状態にさせてしまうのです。

 

5防具はいたむし道場も・・・

 夢中でやっている時は体のダメージはわかりません。でも防具は正直です。タレ流しの汗が打突では壊れるはずもないあちこちの革を短期間の うちに損傷させます。体を保護するどころか防具まで痛めてしまうし、

ジャー剣から流れ落ちる汗は道場に水たまりを作ります。神聖な道場を汚

し、足をすべらす危険さえも引き起こすのです。

 

 

 

? 武道としての剣道であるために 

剣道は武道であってスポーツではない。

この軸がしっかりしていればぶれない判断ができます。

そうです。ジャー剣ではスポーツになってしまうのです。

 

10年ぶりに剣道を再開し5段に挑戦した男性がジャー剣の存在を知ってあきれていました。

 

スポーツの定義についてはここでは留保しますが、スポーツチャンバラやフ

ェンシングは明らかにスポーツです。そして剣道はこれらスポーツ競技と理念において一線を画しているといえます。目先の効率を優先する風潮を是正しないと理念の土台が揺らいでしまいます。

 

 

. 正中線

剣道では構えも打突も中心を保つことが大切です。背筋はまるめたりかがんだりしてはいけません。織物の布はタテ糸がぴんっと張っているので、背筋が伸びます。

剣道は木綿の稽古着とともに続いてきました。ジャー剣にその代用は出来ません。ジャージ素材は忍術のような動作には適しているでしょう。

 

 

. キリッとした着装

  衿を正す、折り目正しく、身が引き締まる・・・

  木綿の稽古着を着て実感できるこれらの感覚は気力を充実させてくれます。着ることによって心を引き締め相手を敬う和装の文化です。ジャー剣ではこの境地を感じることは出来ません。

 

 

. 本物の奥深さ

  スポーツは勝敗がすべてだから、道具は勝つために進化します。剣道は人間形成の道だから本物の道具を使うことが肝要です。本物は人の心に響きます。美しい絵葉書の風景も現地で見る感動には遠く及びません。

  ファーストフードやジャンクフードは口当たりはよくても体に有害です。 

  本物の稽古着は糸の状態から藍で染め、刺子の模様に織り上げ作られていきます。稽古着は直接肌に触れ、広い面積で体と接します。本物を着て身体を守り心も鍛えてほしいものです。とりわけ子供や初心者は健康と上達を考え本物を使うべきです。

 

 

. 装束としての稽古着

  装束という言葉は特定の目的を持った服装という意味です。刺子稽古着は紛れもなく剣の稽古、修練の為の装束です。刺子はもともと布を重ね一と針一と針刺し合わせ寒さや過酷な労働に耐えることを目的とした丈夫な仕事着でした。また火消し装束としても名をはせました。その秀れた衝撃吸収力と丈夫さゆえ稽古着に応用され現在は機械織の刺子として引きつがれています。実用性と伝統に裏付けられた刺子こそ剣道着にふさわしいものです。

 

 

. 衣は文化

  人々の生活の基盤を「衣・食・住」で表します。

  どうして衣が最初に来るのでしょう。衣は人間にしか持つことのできない「文化」という精神を明確に表現できるからなのです。衣は礼節を整え、着る人の人格にも影響を与えます。木綿の刺子稽古着を着ることが、日本文化である剣道を理解する第一歩となるのです。

 

? 最後に

「たかがゆるむ」という表現があります。木製のオケやタルを組み合わせる輪っかがゆるみますと水がしみ出しやがてたがははずれ、タルはバラバラに分解してしまいます。

 

剣道具づくりの貴重な技術、熟練の職人がどんどん失われつつあります。

 

技術と心意気のこもった剣道具を誠実な商売でとりもてば使う人が最も幸福になれるはずです。

一剣道着においては粗悪品・低級品が横行していたことがジャー剣の呼び水になったことは否定できません。

ご承知のとおり藍の効能を有する先染め剣道着は武州一の他存在しません。

 

青少年がジャー剣にむしばまれぬ様武州一の一剣 140・130・120

をおすすめいただきたいと願っております。

日頃のご愛顧に深謝するとともに皆様のご繁栄を祈念してペンを置きます。